研究テーマ
真核モデル生物である出芽酵母を用い、生命現象の制御メカニズムの解明を通じて
医学医療分野への貢献を目指します。
遺伝子発現の転写後調節
遺伝子発現の調節は、細胞のホメオスタシス(恒常性)維持や様々な環境の変化に対応するために重要です。
セントラルドグマにおいて遺伝情報はDNAからmRNA、そしてタンパク質へと順に伝えられますが、これら各段階における調節がそれぞれ最終的なタンパク質の制御につながります。私たちはその中でもmRNAの安定性とタンパク質への翻訳の制御に注目し研究を行なっています。
真核生物における遺伝子発現は、栄養状態・細胞外ストレスなど細胞外のシグナルによって調節されます。たとえば、栄養飢餓や高温・酸化などのストレス存在下では、mRNAからタンパク質への翻訳が抑制され、mRNAは細胞内の顆粒に局在し、分解へと導かれます。このようなmRNAの翻訳・安定性の制御機構は、真核生物の中で酵母からヒトまで保存されています。
私たちは出芽酵母を用いて様々なストレスに応答したmRNA安定性や翻訳の制御機構について明らかにしていきます。
小胞体ストレス応答を制御するシグナル伝達機構
細胞で作られたタンパク質は、細胞小器官のひとつである小胞体(Endoplasmic Reticulum: ER)にて、正しく折りたたまれ高次構造をとることが必要です。
しかしながら、さまざまなストレスによりこれらタンパク質の折りたたみができずに不良タンパク質として小胞体に蓄積してしまうと正常な細胞の機能を発揮することができません。このような細胞にとっての危機的状態を小胞体ストレスと呼びます。
この危機的状態に対応するため、細胞には小胞体ストレス応答(Unfolded Protein Response: UPR)と呼ばれる危機回避システムが備わっています。小胞体ストレス応答は、がん・神経変性疾患などの疾病に関連しており、その分子機構の解明は関連する疾病の予防や治療において重要です。
私たちは出芽酵母を用いて小胞体ストレス応答を制御するシグナル伝達機構について研究を行っています。
配偶子形成メカニズム
有性生殖を行う生物は減数分裂を経て配偶子を生み出し、次世代へと遺伝情報を受け継いでいきます。この減数分裂にともなう分化の過程では、遺伝子発現の制御や細胞小器官の再編成など細胞内でさまざまなことが起こっています。
単細胞真核生物である出芽酵母の配偶子形成では、親となる二倍体の細胞の中に4つの一倍体の「子のう」細胞が生まれます。真核生物の細胞は発生の過程で多核を形成することがあります。その多核を維持する場合もあれば、特別な細胞分裂のプロセスを経て個別の細胞へと分化することもあり、後者を「細胞化」と呼びます。このような細胞化では、核の形態変化や細胞膜のリモデリングをはじめとした細胞内の体制が大幅に変化します。
私たちは出芽酵母の減数分裂・胞子形成における細胞化の仕組みを明らかにしようと研究を行なっています。